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この症状って、神経痛ですか?
「これって神経痛ですか?」という質問を受けることがよくあります。典型的な、びりびりする感覚があれば神経痛であると実感しやすいですが、それだけではありません。今日はいわゆる「神経痛」、正確には「神経障害性疼痛」と言われるものについてお話いたします。すこし難しい内容になるかもしれませんので、ご興味のある部分だけでもご覧ください。
神経障害性疼痛の特徴
痛みには主に、①神経障害性疼痛、②侵害受容性疼痛、③痛覚変調性疼痛の3つがあります。
神経痛、いわゆる神経障害性疼痛の特徴は、冷たいものによる刺激によって疼痛が誘発される、発作的に痛みが出る(特に誘引がはっきりせずに出現する)、焼けつくような灼熱痛がある、疼痛を伴う部位の知覚のにぶさ(触られている感覚がわかりにくい、冷たい、熱いを感じにくい)、アロディニア(本来は痛みを引き起こさないような刺激(例えば、軽く触れる、服が皮膚に触れる、風が当たるなど)によって痛みを感じる状態のこと)を伴う頻度が高いということです。
ご自身の症状がこれらのような特徴を満たすならそれは神経痛である可能性が高まりますが、これらの特徴を満たすからといって必ず神経痛と断言できるわけではないことに注意してください。
神経障害性疼痛のメカニズム
神経障害性疼痛は、「体性感覚神経系の病変や疾患によって起こる疼痛」と定義されており、末梢神経系と中枢神経系のいずれの障害によっても生じます。神経系の可塑的な異常が原因で神経症状が生じることで、痛みやアロディニア(触刺激による疼痛の誘発)、痛覚過敏が起こると考えられています。神経系は体性感覚細胞自体の易興奮性以外にも、グリア細胞が神経興奮を調節することが明らかになっています。さらに、脊髄に入力される痛み信号の関連性が変化し、過剰な痛みが強調されることで中枢性に増幅される「背側角ネットワーク」という神経ネットワーク機構が存在し、さらにこれに下行性疼痛抑制系も関与します。体性感覚神経系の障害によって下行性疼痛抑制系の機能が弱まることも知られており、これも神経障害性疼痛の発症機序の一つであると考えられています。
これらの痛みの発症・増悪・維持機構においては、生理活性脂質のリゾホスファチジン酸(LPA)シグナリングが重要な役割を果たしています。LPA受容体の遺伝子多型は神経障害自体の重症化や痛みの重症化と関連していることが明らかになっており、神経痛の感じやすさや、治療への反応性が遺伝的な訴因によって決定されている可能性を示唆しています。
神経障害性疼痛に対する薬物療法
神経障害性疼痛に対する治療法の中では、薬物療法が最もエビデンスレベルが高く、標準的な治療法として推奨されています。
①神経障害性疼痛の第一選択薬
第一選択薬としてカルシウムチャネルα2δリガンド、セロトニン/ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、三環系抗うつ薬(TCA)が選ばれています。
ミロガバリン(タリージェ)は神経障害性疼痛に特化した特徴があるため使用される頻度が高く、一定の安定的効果を示しています。神経障害性疼痛の性質にかかわらず広く有効性と期待できる点で第一選択薬の候補となります。副作用では「眠気」と「浮動性めまい」の頻度が最も高いとされています。そのため車や銃器の運転など眠気が致命的なミスにつながる職種の方では内服は慎重に行わねばなりません。ただし、いずれの副作用も軽度で、処方開始および増量後数日間でこれらの副作用は抑制される傾向にはあります。そのため、服薬初期には眠気、ふらつきが現れる可能性があるため転倒しないように注意しつつ、服薬を継続してもかまいません。また、その鎮静効果は用量依存性で、容量が増えれば増えるほど効き目は強くなりますが副作用も強くなるので注意が必要です。
SNRIのデュロキセチンは抑うつ症状の改善に伴う間接的な鎮痛効果ではなく、下行性疼痛抑制系の機能を賦活することにより鎮痛作用を発揮します。服薬初期に眠気が出現することがありますものの、この点も患者に説明して安心感を与えることが推奨されます。TCA(特にアミトリプチリン)も複数の本格的な神経障害性疼痛疾患に対して有用性が示されていますが、古典的な臨床試験からエビデンスの根拠となっているためQOL評価点が十分でないことに加え、TCAは高用量で心毒性による心突然死のリスクが高まること、特に65歳以上では注意を要することが示されています。従って、高齢の患者あるいは心疾患の既往がある患者や高齢の適応には慎重な判断が必要です。
②神経障害性疼痛の第二選択薬
第二選択薬の基準は「一つの神経障害性疼痛の病態(疾患)に対して有用性が確立している薬剤」と設定され、ワクシニアウイルス接種反応変症皮疹由来治療薬剤(ノイロトロピン®)と弱オピオイド鎮痛薬が分類されるトラマドールが挙げられています。ノイロトロピンは下行性疼痛抑制系の機能賦活をしながら、COX-2阻害効果による抗炎症作用が神経症状を改善することに鎮痛効果を発揮すると考えられています。
CKD(慢性腎臓病)の患者や高齢者などで腎機能が低下している人でも安全に使用が可能とされています。トラマドールは麻薬指定を受けておらず、有用性の高い薬剤として推奨されています。オピオイド受容体作動薬であるため他剤が無効だった場合の有効性が示されていること、用量依存性に鎮痛効果が期待できることが特徴です。
トラマドールの副作用として吐き気や浮動性めまいが挙げられることが多いですが、トラマドールはセロトニン受容体に対して完全作動薬として働くため鎮痛効果に天井効果がなく、用量による鎮痛効果の調整が容易です。
③神経障害性疼痛の第三選択薬
強オピオイド鎮痛薬は、長期使用時におけるリスク・ベネフィット比が一定水準を超えた場合(不適切な使用により精神依存を引き起こすなど)があることから第三選択薬に位置づけられています。強オピオイド鎮痛薬は神経障害性疼痛全般に対して最も高い鎮痛効果を発揮する薬剤です。その効果を最適に評価する指標としてNNT(number needed to treat)、つまりある有効な対象者に行う場合、1人に効果が現れるまでに何人に介入する必要があるのかを示す数字が用いられています。これは、神経障害性疼痛に対する鎮痛薬の効果の比較で、NNTが小さいほど高い効果を示します(図2参照)。
神経障害性疼痛に対する各種治療薬の中でも、強オピオイド鎮痛薬はNNT=2.5と最も小さく、鎮痛効果が最も高いことが示されています。神経障害性疼痛に対する強オピオイド鎮痛薬のリスク・ベネフィット比を適切に評価するために、米国では依存性が保証された乱用防止効果のある製剤のみが薬事承認されるようになっており、国内ではオキシコドン徐放剤(オキシコンチン®TR錠)とフェンタニル貼付剤、ブプレノルフィン貼付剤(ノルスパン®テープ、腰痛症、変形性関節症のみ保険適用)が該当します。
いずれのオピオイド鎮痛薬も神経障害性疼痛に対して有用とされます。薬剤による有効性は示されており、モルヒネの神経障害性疼痛に対する有効性を示したデータでは90~240mg/日であったことに対し、オキシコドンは10~120mg/日であり、鎮痛価値は十分に推奨されています。
これらを考慮し、オピオイド鎮痛薬は適切な管理のもと神経障害性疼痛に対する鎮痛効果が高いと考えられます。この他、ヒドロモルフォン(および拡張適応のある製剤)の使用も有効性が示されています。
神経障害性疼痛の治療を最適化するための評価ポイント
神経障害性疼痛を含む運動器の慢性疼痛の診療では、運動器自体の障害と痛み、さらにこれに伴う心理的要因がスパイラル的に悪化するため、痛みの悪循環、全体を治療の対象として捉えなければならない(図3参照)。加齢に伴う筋骨格系の障害を契機として、運動器疼痛の発症は自己効力感(自己身体に対する自信)の低下につながります。そして、運動への回避、身体機能やADLの低下、痛みの気持ちのつらさなどが複合的に進行することで日常生活を送る意欲や教育を保つことが難しくなり、廃用症候群や生活習慣病が増幅することがこの悪循環モデルでは説明されています。
このような患者に対しては、適切な疼痛治療を行い、治療効果を可視化し共有することで患者の治療に対する信頼感を高めることが目標になります。また、疼痛薬を使用する場合でも運動を習慣化させる指導をすることで悪循環から抜け出し、痛みの緩解が得られるように患者教育を行うことが、鎮痛薬を常に漸減中止することを念頭におかなければなりません。
また、この悪循環モデルは以前に、慢性疼痛患者における身体的QOL低下要因を探求した研究で、神経障害性疼痛、痛みの依存的悪影響(前述の自己効力感の低下と関連)、痛みを過度に恐れる性格傾向、睡眠障害が指摘されました。しかし、痛みの治療においては、痛みそのものの軽減に加えて、痛みの悪循環と睡眠障害を治療ベースの最適化するために評価することが必要です。一般に、神経障害性疼痛の治療薬では、その副作用として眠気が挙げられるものの、痛みに伴う睡眠障害に対して眠気効果の改善と用量増加を実現させています。
そのほか、慢性疼痛患者では一定の頻度で睡眠障害が訴えられるため、ベンゾジアゼピン系睡眠薬や抗不安薬の併用によって眠気、ふらつきが強化されるため使用には十分な注意し、可能であれば漸減中止できるよう服薬指導することも必要であるとされています。
おわりに
当院では神経障害性疼痛に対する治療経験の豊富な医師が診療に当たります。
神経痛にお悩みの方は、まずは当院を受診いただき、症状についてご相談ください🌸
参考文献
・月刊薬事 66(8): 1466-1470, 2024.
・臨牀と研究 101(6): 665-668, 2024.