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女性ホルモンの減少が引き起こす「更年期障害」と「骨粗しょう症」の深い関係
更年期の関節のこわばりや痛みが、更年期障害の症状のひとつであることを以前のブログでご説明しました。
「骨粗しょう症」は、骨がもろくなり、骨折しやすくなる病気です。そして実は、この病気は「更年期障害」と深い関係があります。
更年期障害とは、閉経を迎える50歳前後からおよそ10年間にみられるさまざまな症状を指します。代表的なものは、のぼせや発汗などのホットフラッシュ、不安やイライラ、肩こり、首の痛み、膝などの関節痛、指のこわばりや痛み、さらには腱鞘炎などです。これらは女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が低下することによって起こります。
同じくエストロゲンの低下は、骨粗しょう症の大きな原因にもなります。エストロゲンには、骨を作る細胞(骨芽細胞)の働きを助け、骨を壊す細胞(破骨細胞)の働きを抑える作用があります。ところが、閉経によりホルモンが減少すると、骨を作る力が弱まり、逆に壊す力が強まってしまいます。その結果、骨密度が減少していきます。
下のグラフは、年齢と骨密度の変化を示しています。白い矢印で示した中央のラインが年齢ごとの平均的な骨密度です。加齢とともに骨密度は少しずつ低下していきますが、特に「50歳前後の更年期を境に急激に減少する」ことがわかります。そのため、閉経後の女性は誰もが「骨粗しょう症予備軍」といえます。す。閉経後の女性は潜在的に「骨粗しょう症予備軍」といえます。

なぜ女性ホルモンの変動が骨粗しょう症を引き起こすのか?
私たちの骨は常に新しく作られ(骨形成)、古い部分が壊される(骨吸収)という新陳代謝を繰り返しています。これを「骨代謝」といいます。
骨の内部にあるスポンジ状の「海綿骨」は、1年間で約40%が新しく入れ替わります。一方、骨の外側を覆う硬い「皮質骨」は年間で5~7%が入れ替わっています。つまり、骨は常に生まれ変わっているのです。
ところが、女性ホルモンが減少すると、骨を壊す細胞(破骨細胞)の働きが急に活発になります。そのうえ、酸化ストレスも増加し、骨の成分であるコラーゲンを劣化させてしまいます。その結果、骨の量だけでなく「骨の質」も低下し、骨折しやすい状態につながります。

女性ホルモンの減少は、骨の石灰化度(カルシウム含有量)の低下を引き起こし、また一方で骨の「微細構造」を壊します。下の図のように、骨の内部(海綿骨)が薄くすかすかになり、骨の外側の硬い部分(皮質骨)が薄くなり、多孔性(あなだらけになること)になります。

骨粗しょう症になると、海綿骨があなだらけになり骨がスカスカになります
男性も加齢とともに男性ホルモンが減少するのですが、女性ほど急激に減少することはありません。それに対して女性は、閉経を迎えると、女性ホルモンが一気に減少してしまいます。
ホルモン減少は永続的で、通常は自然回復しません。骨粗しょう症の主な原因が性ホルモンの永続的な減少にあるならば、何らかの治療介入がない限り、骨密度が加齢とともに減少していくのは避けられません。
更年期の骨粗しょう症に対する検査
骨粗しょう症の診断には、「脊椎のレントゲン検査」と「骨密度検査」が必要です。
下の図は、骨粗しょう症を診断するためのチャートです。まずは、脊椎・大腿骨・肋骨などに「脆弱性骨折(ぜいじゃくせいこっせつ)」がないかを確認します。脆弱性骨折とは、骨がもろくなることで起こる骨折のことです。通常、骨折は強い痛みで気づきますが、脊椎の骨折は痛みが出ないこともあり、知らないうちに骨折している「いつのまにか骨折」が起こる場合があります。
そのため、腰痛などのはっきりした症状がなくても、脊椎のレントゲン検査を受けて確認することが大切です。骨密度検査とあわせて行うことで、骨粗しょう症の有無を正確に判断できます。

骨密度は「大腿骨」と「脊椎」の2か所で調べるのが最も正確です。これらの部位は、全身の骨の状態をよく反映するうえに、実際に骨折した場合には介護が必要になったり、寝たきりにつながりやすい場所でもあります。一方で、かかとや腕などで行う骨密度の測定は精度が低く、骨粗しょう症の診断には不向きです。そのため、日本の診療ガイドラインでも推奨されていません。
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骨粗しょう症の治療に血液検査が必要な理由
骨粗しょう症の治療を始める際には、血液検査がとても重要です。その理由は主に3つあります。
①他の病気が原因でないかを調べるため
女性ホルモンの減少以外にも、内臓の病気が骨粗しょう症の原因となることがあります。その可能性を確認します。
②治療薬を安全に使えるか確認するため
腎臓や肝臓の働きが悪いと、一部の骨粗しょう症治療薬が使用できない場合があります。血液検査で臓器の状態をチェックし、安全に治療を行えるかを判断します。
③骨代謝の状態を調べ、薬を選ぶため
血液検査で「骨代謝マーカー」を測定すると、骨を壊す働き(骨吸収)と骨を作る働き(骨形成)のバランスがわかります。これにより、その方に合った治療薬を選択できます。
- 骨吸収マーカー:TRACP-5b(酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ-5b)
- 骨形成マーカー:PINP(1型プロコラーゲン-N-プロペプチド)
例えば、TRACP-5bの値が高い場合は「骨吸収が過剰」であることを意味します。その場合は、骨吸収を抑えるタイプの薬を第一選択として使用する、といったように治療方針を決めることができます。
骨粗しょう症による骨折は予防できるのか?
骨密度は治療によって上げることができ、骨折のリスクを有意に下げられます。
下の図は「骨密度が上がると骨折のリスクがどのくらい下がるのか」を示したものです。

骨密度を上げることの大きなメリット
なんと、骨密度が わずか6%上昇するだけで、大腿骨の骨折は約70%も減少する ことがわかっています。つまり、治療によって骨密度を改善させることの効果は計り知れません。
一方で、その逆に骨密度が低下すると、骨折のリスクは飛躍的に高まります。だからこそ、骨粗しょう症を早期に発見し、治療することが重要 です。適切な治療を行うことで、将来的に寝たきりや要介護につながる重大な骨折を予防することができます。(治療について詳しく)
骨粗しょう症が気になる方は、ぜひ一度ご相談ください😊
参考文献
イキイキからだのつくり方 手指編. からだにいいこと.
IntechOpen. Estrogen Deficiency and Osteoporosis.
Amgen, Ivenity.