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ガングリオン:手首、足首のしこりの正体とは?
「ガングリオン」って聞いてことがありますか?意外と多く見られる手首や足首にできる、ほぼ100%良性の皮下腫瘍です。ガングリオンは内部にムコ多糖を含有する粘液(見た目は透明なゼリーです!!)が中に詰まっています。
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ガングリオンは関節包もしくは腱鞘のヘルニアと考えられています。手関節背側が好発部位で,男女比は1:3で女性優位に発生し、20代から40代の若い年齢層に多く発生します。特に、スポーツや手作業など、手首や足首を多用する作業を行う人に多く発生します。
ガングリオンはどこにできやすい??
ガングリオンは手関節や足関節などの関節や腱の周りにできやすいとされています。手関節の場合、特に手根管症候群(指のしびれを引き起こす疾患)と関連して、手のひら側にできることがあります。手関節の背側には非常によく発生され、この部位のでき物に気づいて受診される方が最も多い印象を受けます。
足関節の場合、腱や靭帯などが集まる場所にできることが多いです。特に足関節の内側にできることが多く、内側側副靱帯部分を発生母地としてできることが多いです。また、足関節の外側(足の外側)にもできることがあります。
ガングリオンはなぜできる?
原因は医学的に確定されていませんが、いくつかの学説があります。
一つは、関節や腱の周りの組織に微小な損傷が起こり、その箇所に液体が溜まってガングリオンが形成されるという説です。また、過剰な運動(手をよく使うスポーツ)や負荷(職業、家事)がかかった場合にも、ガングリオンができやすいとする説もあります。
また、ガングリオンはリウマチや関節炎などの関節疾患の合併症として出現することもあります。
遺伝的要因や、特定のスポーツや業務などによる反復的な運動やストレスが関与することも考えられていますが、これらの説は医学的に確立されたものではなく推論にとどまっています。
ガングリオンの診断方法
ガングリオンを診断するためには、主に以下のような方法が用いられます。
ガングリオン自体は良性腫瘍ですが、極稀に皮膚の悪性腫瘍が存在することがあり、医師の確定診断を受けずにガングリオンだと思い込んで放置することは望ましくありません。したがって以下のような手順で腫瘍がガングリオンだと確定させておくことがまずは必要です。
①医師の診察
ガングリオンの特徴である、袋状のしこりやしこりを確認し、触診することで診断を行う場合があります。ドーム状に隆起した単発の弾性軟の結節で,色調は正常皮膚色~淡紅色(粘膜に生じる場合は赤色~青色)です。粘液が透見される場合は診断が容易で,照明を当てるとさらにその所見が明瞭になります(Flash-powered transillumination).
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②超音波検査
超音波検査は、袋状の液体が溜まった部分を詳しく観察することができるため、ガングリオンの診断に有用です。超音波検査では,均一な低エコー領域として描出され,血流は認めません。また、超音波検査は非侵襲的で、被検者に負担をかけずに行えるため、広く使用されています。
③MRI検査
MRI検査は、袋状の液体が溜まった部分の詳細な内部像を観察することができます。造影MRIではT1強調像で低信号,T2強調像で高信号を示し内部造影効果のない均一な嚢腫様病変として確認されます。
④穿刺検査
ガングリオンを穿刺して液体を採取し、診断する場合があります。この方法は、他の診断方法が不確実な場合に使用されます。嚢腫を穿刺すると,透明~琉珀色のゼリー状の粘液が排液されます。
ガングリオンの治療
ガングリオンは純粋に良性の腫瘍であり、がんとは異なります(他の悪性腫瘍との鑑別は必要でこれには医師の診断が必要です)。そのため症状がなければ必ずしも治療を必要とはしません。
しかし、ガングリオンの周囲の痛み、圧迫感、関節可動域の制限などの症状が出る場合は治療が必要となる場合があります。また見た目が目立つ場所にあるときは整容的な観点から治療を行うこともあります。
①ガングリオンの穿刺、吸入
半数は自然消退することを伝え,経過観察を進めることもあります。
経過観察で消退しない場合は18G針という太い針を用いて穿刺し排液します。
通常は穿刺すると自然に排液が始まり、手で圧迫することで嚢腫部分のゼリー状の内容液はほとんど排出することができます。細い針で穿刺すると粘液が排液されないことがあるので、痛みに敏感な方以外は太めの針で穿刺することが望ましいと考えられます。
排液が観察されない場合は,他の疾患であることも考慮します(他の皮下腫瘍を考慮する必要があります)
半数程度は,自然肖退もしくは1回の穿刺・排液で改善することが期待できます。
しかしこれは裏を返せば約半数程度は再発のリスクがあるということでもあります。
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ガングリオンの穿刺後にステロイドの局注が施行される場合もありますが,手関節のガングリオンに
関しては無作為化比較試験で,ステロイドの有無にかかわらず穿刺後の再発率に差がないこと,副作用として皮膚の色素脱失と皮下脂肪の萎縮が起こりうることが報告されており当院ではこの結果を鑑みてステロイドの併用注射は行っておりません。
②外科的切除
再発を繰り返すとき、疼痛や腫瘍の神経圧迫による神経症状を伴うとき、みため(整容)的に摘出
を望むときは手術を検討します。手術後の再発率は決して低くはなく(5~30%程度)、創部感染、神経障害、肥厚性瘢痕(傷跡がのこる)等の合併症も生じるリスクがあり、そこを勘案して手術を行うか検討しています。
施設によっては手関節背側のガングリオンに対して関節鏡下手術を施行しており、十分に習熟した手外科医が在籍した病院での手術が望ましいと考えられます。私も淀川キリスト教病院在籍時に執刀しておりましたが、手関節背側は視野の確保、シェーバーなどのコンソールの操作も一苦労で難しい手術の一つであると感じておりました。
手術をご希望の方は当院の連携病院(淀川キリスト教病院、大阪府済生会中津病院、十三市民病院、大阪市立総合医療センター、大阪回生病院など)をご紹介させていただきます。
整形外科 | 外科系診療科 | 診療科・部門 | 淀川キリスト教病院 (ych.or.jp)
Copyright ©TECHNOLOGY AND CODE article. Front. Surg., 31 August 2022. Sec. Orthopedic Surgery
参考文献
私の治療 No.5075 山口泰之( (2021.7.31, 日本医事新報)
TECHNOLOGY AND CODE article. Front. Surg., 31 August 2022 Sec. Orthopedic Surgery